June 29, 2010

ものうり

メヒコでは、物を売っている人、すなわち「ものうり」をよく見かける。彼らは、神出鬼没で本当にどこにでも現れる。歩いていると、道端でお菓子を売っていたりするし、カフェにいてもチョコレートを売りにきたりする。バスが赤信号でちょっと停車したときにおもむろに入ってきて、売りに来る人もいる。

このものうりの人たち、いろいろいるけど自分の中ではもはや「日常の1コマ」化していたのだが、このあいだ友だちとskypeで話したときにそのエピソードをぽろりとすると、「ええええ?!?!」とえらく驚かれて、あ、やっぱり普通(日本の感覚では)じゃないんだな、と再認識させられた。……というわけで、このものうりの中でも印象深いものを少し紹介することにします。

まず一つ目は、空港に向かうバスの中で出会った「チョコレート売りの兄ちゃん」。車内に入ってくるなり、なにやらスペイン語でパラパラパラと話していて、それをほげ~っとぼんやり見ていた。話し終わったかと思いきや、兄ちゃんは箱に入っているチョコレートを乗客のひざの上に置き始めたのだ。「え?!空港行きはこんなお菓子のサービスがあんの?!」と思ったが、その割には車内の空気は重い。どうしていいのかわからなすぎて、変な汗をかいてきたがとりあえず私の指紋をつけたら「アウト」な気がしたのでひざの上に置かれたまま硬直しておくことにした。すると、しばらくしてからチョコレートを回収しはじめた。どうやら、欲しい人はそのままお金を支払い、いらない人はチョコレートを返すというシステムだったようだ。このタイプのものうりには、その後長距離バスに乗ると何度か遭遇した。一度ハンドクリームをひざに置かれて、また硬直して、返すタイミングを見計らっていると、隣に座ったおばさんはなんとお買い上げ。やはり、需要があるからこういう人がいるんだな、と妙に感心してしまった。

二つ目は、普通の市バスに乗っているときの事。赤信号で停車した時におじさんが入ってきた。目が合ったら有無を言わさず売りつけられそうなので、耳だけすますとそれはもう明瞭に「ピカチュウ!!!!」と叫んでいるではないか。そっと顔を上げておじさんを見ると、ピカチュウが15個くらい入ったマシュマロを砂糖でコーティングしたお菓子を手に持っていた。アメリカでイースターとかの時に出回るpeepsとかいうお菓子に似ている。「うわー。ぱくりや。」と思いながらやはり目があったら最後、とおじさんが立ち去るのをじっと待っていると、やはり売れるのである。ううむ、すごい。

しかし、今までで一番驚いたのは、D.F(メヒコシティ)のメトロ(地下鉄)のものうりだろう。D.Fは「危ない」「怖い」と言う評判だったのに1人でメトロに乗る羽目になってしまったことがあった。かなり気合を入れてスリやその他全ての人に警戒心を抱きながら乗っていると、かなりでかいリュックサックを背負った兄さんが乗ってきた。かなり勢いよく入ってきてそれだけで仰天していると、今度はおもむろに手に持っているCDプレイヤーをいじり始めた。ポータブルCDプレイヤーをはだかんぼうで持っている時点で、「は?!何で?!」なのだが、次の瞬間車内に爆音ミュージックが流れ始めた。でかいリュックに見えたのは、実はでかいスピーカーで、CDプレイヤーで再生した音楽がそのまま爆音で流れる仕組みになっていたのだ。これはもうなんというか、想定外過ぎてバックパックを握り締める手にはますます力が入った。その爆音具合も半端なく、曲の一部を何曲か流してそして突如「このCDがなんと15ペソス!!!!」と叫び始め、乗客一人一人に近づいて売りつけ始めたのだ。「頼むから、あたしのところにはこんといてくれ。南無阿弥陀仏!!!」と仏頼み状態でひやひやしていると、運良く次の駅に着いた。プシュウとドアが開くなりそのスピーカー兄ちゃんは勢いよく外に出て行き、つかつかと歩いてもう一つ前の車両に乗り込んでいった。

ほっとしたのも束の間、次のものうりがこの車両にも乗り込んできたのである。今度もまたスピーカー野郎だ。「ああ、D.F。なんてこった……」と思いながらやりすごし、また次の駅についた。スピーカー野郎2もつかつかと出て行ったかと思うと、今度は女が乗ってきた。女は、背の低いおばさんでかごを腕に下げて、片方の手には小さなライトを持っていた。そして、そのライトでいろいろなところを照らしながら、フルボリュームで「シンコペソス!!!!!(5ペソ)」と叫んで乗客一人一人に伺っているのである。シンコペソス!!!といいながら、カッと目を見開いてキッと顔を向けられて、ライトで照らされた時にはもう、D.Fにきてしまったことを後悔し、1人でメトロに乗っているその状況を恨んだ。しかし、スピーカー野郎の経験上一駅我慢すればシンコペソスライトおばさんも去ってくれるはず、とじっと時を待った。

例によっておばさんは次の駅で隣の車両に移っていき、これもまた例によって別のものうりが自分の車両に入ってきたのである。目的の駅までこれの繰り返しだった。このD.Fのものうりが今まで出一番神経をすり減らしたかもしれない。

これだけ書いたけど、他にもいろんなものうりがいるけど、書き出したらきりがないな、とここまで書いてようやく気付いて、やっぱりこれは日本ではありえないことだなあと思った。慣れとは本当に恐ろしいもんだ。

補足だが、いつもものうりにびくびくしているわけではない。お菓子を売り歩いている人から買ったりするときもある。しかし、この場合気をつけなければならないのは、不思議なことに各売り子で値段が違うというところだ。見てくれが「ザ・外国人」なので高めの値段を吹っかけられていることもあるので、買うときは何人かに値段を確認して価格調査するのが大事なのだ。

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